気まぐれなあとがき

すべてあなたとわたし宛て

仁義なき親知らずとの戦い 第二戦

〜前回までのあらすじ〜

hirunelover.hatenablog.com

ひっそりと歯茎に身を隠していた親知らずちゃん。今までうんともすんとも言わない優等生だったのに、ある日急に自己主張を覚え、「俺を無視すんな!」とかなんとか騒ぎ始めた!その痛みに負けたわたしは半泣き状態で歯科医院の予約を入れ、しばらく夜しか眠れない日々を送っていた……。

   *   *   *

11月某日、わたしはかかりつけの歯科医院の前にいた。予約時間まであと5分、完璧なタイムスケジュールで行動していたが、脳内は「帰りたい、今すぐに帰りたい」という気持ちでいっぱいだった。

それでもわたしはえいやっと心を奮い立たせて扉を開けた。その瞬間、待合室にまで聞こえるなんかよくわからない機械音が耳をつんざいた。

キュイーンとガガガガガで満たされた空間にいるだけでわたしのHPはゴリゴリに削られていく。まだ何も始まっていないが早く終われと念を送りつつ、保険証と診察券を受付のお姉さんに渡して適当な席についた。

待合室は昨今の状況のおかげで雑誌はすべて片づけられており、わたしは順番を待っている間、得意な妄想に時間を費やすことにした。
ペンギン帝国に移住し餌やり係になったものの餌の消費期限が切れていたため体調不良のペンギンが続出し無人島に左遷されたところまで妄想した辺りで名前を呼ばれた。これから面白くなるのに……と若干膨れながらトボトボと診察スペースに移動した。

歯科衛生士とおぼしきお姉さんに現状の確認をされながら、後ろに倒れるタイプのシートに座る。
「親知らず側の耳も痛いんですけど関係ありますか?」と尋ねたら「あー関係あるかもね、リンパで繋がってるからね」と言われた。わたしは少しだけホッとした。これで耳の痛みが歯痛と全然関係なかったら耳鼻科にも行かねばならないからである。

数分後、先生による診察が始まった(ちなみにこの先生とはわたしが小学生のときからの付き合いであり、子どもの頃の印象が強いのか、成人した今でも「すみちゃん」と呼んでくる。本筋とは全く関係ないが個人的にツボなので付け足しておく)。歯科でしか見たことがないあの小さな鏡を口の中につっこまれ、呪文のような専門用語を隣のお姉さんに向かって唱えた。

先生曰く、完全に生えきっていない親知らずに汚れが入りこんで周りの歯茎が炎症を起こしているらしい。飲み薬を2種類出してもらい、それでも痛みが引かなかったら抜歯ね、とのことだった。

親知らずをブチ抜く気満々だったわたしは少し拍子抜けしたが、

「この状態で親知らずを抜くとなると、麻酔かけて歯茎切るしかないね~」

などと軽い感じで言われたので、やっぱりブチ抜かなくていいやと思った。百戦錬磨の先生にとってはどうってことないのかもしれないが、意識が遠のくような話をヘラヘラ笑いながら言わないでいただきたい。

   *   *   *

その後、処方された薬が効いたので、仁義なき親知らずとの戦いは休戦となった。勝手にシリーズ化する気でいたのでちょっとだけ残念だった。しかし、麻酔かけて歯茎を切るのはどう考えても恐ろしい。結果的にこうやって文章になったから、親知らずが痛んだ甲斐もあっただろう。

……なんていうのは大嘘だ。痛いのはもう二度とごめんである。