気まぐれなあとがき

すべてあなたとわたし宛て

1月に考えていたこと

大学の試験が終わって、あとは卒業判定を待つだけになった。最後の試験を提出したとき、なにか熱いものでもこみ上げてくるかと思ったけれど、実際は普段の試験と何ら変わりはなく「やっと終わった、明日から何しようかな」程度の感慨だった。これが大学の教室で受ける試験だったらもう少し違う感想を抱いたかもしれない。普段から孤独に勉強している通信制大学生が、完全オンライン化した試験を終わらせても、喜びを共有できる仲間なんてほとんどいないのだった。一応両親と祖母に「試験終わったよ~」と報告して、それぞれ「よかったね~」「頑張ったね~」「大いに羽をのばしてね~」という返事をもらった。

最近は公募文学新人賞に求められる新しさについて考えている。小説を書いてお金を稼ぐにはまず小説がどこかから出版されなければならない、そして出版されるには(王道を歩むとすればの話だが)公募新人賞を受賞しなければならない。ジャンルを問わず新人賞の募集要項には大体「今までにない」「面白い」「新鮮な体験をさせてくれる作品」を求めていると書かれており、わたしはその「今までになく」「面白く」「新鮮な体験をさせてくれる作品」をどうやって生み出すか毎日頭を悩ませている。あまりにも無難な小説を書いたって目もくれないだろうし、あまりにも前衛的な小説だって弾かれるだろう。よく「新人賞の傾向を汲み取って書かれた小説はつまらない」という意見が出てくるが、わたしはカテゴリーエラーを避けるために新人賞の傾向と対策はある程度練っておいた方がいいと思っている。新人賞選びは就活と同じくらい慎重に行った方がよい、とどこかで読んだことがあるし、出版社のカラーに合わない作品を送っても受賞する確率は低いと踏んでいる。最後の最後まで迷うんだろうなと思いながら、各賞の募集要項をダラダラ眺める日々を送っている。

 

1月に読んだ本が全部よかったのでここに書き残しておく。

 

ずっと前から積んでいた本で、いつ読もうか迷っていたのだけど、新年一発目にふさわしそうだと思って本を開いた。又吉さんワールドとヨシタケさんワールドがぶつかりあって化学反応を起こしたような一冊。どんな風に終わるんだろうとわくわくしていたら、予想外のラストが待っていて唸った。こんなラストが思いつくような才能がほしい。読書が好きな人も、あまり本を読んだことがない人も楽しめる本だと思った。

SNSで読みたい本を見つけることが多く、この本も多くの読書垢が勧めていたので買ってみた。元々はZINEと呼ばれる自費出版の本だったらしい。エッセイと日記が収められていて、どの文章も徹底的に「自分」と向き合って書かれている。こんなにも他者の自意識に触れたのは初めてだと思った。特に好きだったのは「みんな魚」という題の文章で、短いのにこんなに引き込まれるなんて!と感嘆した。今年2冊目にして早くもベスト本にランクインしそうな本に出会った。

この本もSNSで見つけた。感想に入る前にあらすじをちょっと読んでほしい。

彼女は過去を振り返るとき自分のことを「少女」と呼ぶ。やがて死す叔母との対話、国語教師との怪しげな関係、夜更かしな読書ノート。それは平穏だったり不穏だったり日常だったり秘密だったり。驚異の文体で高二の少女のひと夏を描いた乗代雄介のデビュー作。

あらすじを読んでもどんな話なのかまったくわからない。読んでみるとわかるのだけど、この小説はストーリーを伝えるのがとても難しい。文体も難解で、純文学になじみのない人は面食らうかもしれない。作品の中にところどころ気になる文がちりばめられているのに、語り手は核心にはまったく触れず、「周辺の情報」ばかり語っている。唯一無二の文体と、情報の出し方が秀逸な作品だと思った。感想を書くのはとても難しいのだけど、わたしはこの小説を読んで、自分の中で凝り固まっていた小説観がいい意味でぶっ壊されたと感じた。