気まぐれなあとがき

すべてあなたとわたし宛て

人が好き

体調が安定し始めてから、ああわたしはずっと人間が好きだったんだな、ということを思い出すようになった。人と話すのが好き、はあまり正確ではなくて、人間そのものが好き、といったほうが近いかもしれない。もう10年以上忘れていた感情だった。わたしは1日に少しでもひとりきりの時間がないと精神的に疲れてしまう質だけれど、今は人と交流することに救われている。とてもいい変化だと思う。

5月から新しい環境に身を置いて、もう3ヶ月が過ぎようとしている。周りの人から「最近は緊張が解けたように見えますね」と言われるようになった。そうか、そんなに緊張しているように見えたのか、自分では気づかなかった。でも、わたしはある程度緊張感を持っていないとすぐにやらかしてしまうから、緊張していない自分を見せるのに抵抗がある。適度な緊張感、適度な距離感、「適度」ってなんて難しいのだろう。

ずっとお話してみたいなと思っていた人がいて、でもきっかけがなくて話しかけられずにいたのだけど、今週ついにそのチャンスが巡ってきた。休憩時間の10分でその人と本当に他愛もない雑談をした。最近暑くて寝苦しいですねとか、気になる冷感グッズがあるんですよとか、そんな内容だった。日頃の印象から口下手なのかと勝手に思っていたけど、話しかけたらちゃんと相手と向き合ってくれる人だった。10分ってあっという間だったな、また話せればいいなと思ったのと、その人が今週でいなくなってしまうらしいと人づてに聞いたのはほぼ同時だった。帰り道、わたしはちょっと泣きたくなっている自分に気づいた。なんでもっと早く話しかけなかったのだろう、雑談のきっかけなんていくらでも作れたのではないか、でも最後にこうやって話ができたのは、神様らしき存在がくれたギフトなのではないか……。その後もう一度話す機会があったけれど、最後だからといって特に別れの挨拶はしなかった。ここを卒業するのは喜ばしいことだし、そっと送り出すのがいいと誰に言われるでもなく察したからだ。わたしにはその人が新天地でも上手くいきますようにと、心の中で祈ることしかできない。人生規模で考えれば、わたしたちが接した時間はほんの一瞬の交差にすぎないかもしれないけれど、わたしはその人のことをずっと覚えていられるような気がしている。