気まぐれなあとがき

すべてあなたとわたし宛て

仁義なき親知らずとの戦い 第一戦

前からなんとなく気配は感じていた。
カントリーマアムを食べたとき、本来歯茎であるはずの場所に食べかすがつまるような感覚。
痛いわけではないが違和感があり、その違和感は日に日に増していく。しかし痛いわけではないから放っておくしかなかったのもまた事実であり、まあなんとかなるやろ、などとのんきに構えていた。

ところがある日、ヤツが急に痛みだした。鏡で見てみると歯茎から白い物体がコンニチハしているではないか。自己主張を覚えたヤツに対し、わたしは久々に殺意を抱いた。

親知らずめ!許せん!

これは戦うしかない。仁義なき親知らずとの戦いである。

……とはいえわたしはこの戦いに関しては素人なので、ここは百戦錬磨のプロにお任せしたい。〇〇歯科医院、キミに決めた! などと叫びながらモンスターボールを投げる勢いで診察券を探し、固定電話の前に仁王立ちした。あとは予約を入れるだけの状態になったとき、わたしの動きがふと止まった。

歯医者がとても苦手なことを思い出したからである。

治療が痛いとか痛くないとかそういう問題もあるが、わたしの場合、歯科特有の機械音がめちゃくちゃ苦手なのだ。キュイーンとかガガガガガとかいう音を聞いていると歯ではなく頭が痛くなってくる。

なんだか想像しただけで気分が悪くなってきた。心なしか目も潤んできた。行きたくない。心の底から行きたくない……

……一旦昼寝しようか。

わたしは必殺・決断先延ばしを使うことにした。ぬくぬくのお布団に入って眠り、スッキリしたところでまた考えればいい。都合の良いことに今日のお布団は干したてで、ぬくぬくの度合いも桁違いである。夢の中では親知らずに悩まされることもなかろう。

皆さんおやすみなさい、よい夢を……

お布団に入ったわたしは目を閉じた。

幸せとはこのことだ、と思ったのもつかの間、ヤツの自己主張が始まった。しかも今度は激しめの自己主張ときた。何だこれは。耳の奥でキリキリと音がするくらい痛い。痛すぎて昼寝どころではない。もういやだ、わたしは何もしていないのに……

数分後、痛みに耐えかねたわたしは昼寝を諦め、かかりつけの歯科医院に電話した。プライドなんて知らない。痛いのは大嫌いだ。
半分泣きながら予約を入れ、受話器を置いたとき、何としてもこの戦いに勝ってみせると誓った。親知らずめ、許せん。明日お前の息の根を止めてやる!

   *   *   *

……とまあ、ここまで大げさではないですが、親知らずとの戦いが始まった話でした。