気まぐれなあとがき

すべてあなたとわたし宛て

外食の練習・完結編

 

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タイトルの通りである。時田の外食の練習、完結するってよ。

 

さかのぼること数ヶ月前、わたしは友人から遊びに行こうと誘われた。
突然すぎて最初は誰かと間違えているのだと思いこんでいたが、何度確認してもほんとうにわたしを指名しているらしい。マジかよ、とおどろきつつ遊びの予定を立てていく。数回のLINEのやりとりの末、S玉県にある映像ミュージアムに行ったあと、どこかで食事でもしましょうということになった。

友人と遊びに行くイベントなんて経験したことがなかったわたしは、わかりやすく浮かれた。めちゃくちゃ浮かれた。約束の日まで一週間くらいあったのだが、課題にまったく手を付けられない状態だった。

そんな中迎えた当日はニュースで大々的に取り上げられるほどの大嵐だった。せっかくのお出かけなのにおしゃれもできず少々膨れたが、そんなことよりこれから友人と遊ぶのだ、見た目云々などと細かいことを気にしている場合ではない。待ち合わせ場所に現れた友人だって全身黒ずくめだったしきっと問題ない。わたしは自らにそう言い聞かせ、映像ミュージアムに入っていった。

平日なうえに大嵐なので、客はわたしたちふたりしかいなかった。わたしと友人はお互いの大学の話、共通して参加しているサークルの話、リュミエール兄弟の功績について語りながら展示を回った。なにせ貸し切り状態なのでスタッフさんの方が明らかに多く、その辺は若干の気まずさが漂っていたが、館内を回るのは楽しかった。

ふたりとも映像ミュージアムに来るのは初めてで、ミュージアムの規模について誤解していたため、予想よりもだいぶ早く展示を見終わってしまった。ちょっと早いけどお昼食べようぜ、という見解が一致、わたしたちは最寄りのサイゼリヤまで歩いて行った。わたしはトマトソースのパスタを、友人は目玉焼きの乗ったハンバーグを注文し、向かい合って黙りこんだ。

実はこの友人とは同じサークルに所属しているもののほとんど会話をしたことがなく、お互いがどんな人なのかまったくわからないままここまで来ている。おそらくこのとき、ふたりとも「このあと何の話するんだろう……」と思っている。少なくともわたしはそうだった。

いつまでも黙っていては埒があかないので、わたしは大学の話、サークルの話、リュミエール兄弟の功績について話題を振ってみた。先ほどとまったく同じ話にもかかわらず、友人は楽しそうに乗ってくれた。ありがたい。ほっとしたわたしは少しずつ話題を派生させていった。

ふと、バイトの話になった。

「時田さんはどんなバイトしてますか?」と聞かれたので、「初バイトがトイレ清掃だった」という鉄板ネタを披露した。男子トイレも掃除するんですけど、常連のおじさんと仲良くなってめちゃくちゃ話しかけられたんですよ~という話をしたらまあまあウケた。いい感じだ。わたしも「どんなバイトしてます?」と聞き返してみた。すると、友人は「実は……」と神妙な顔をした。

「家族以外の人に初めて言うんですけど」
「はい」
「いま、探偵のバイトに応募しているんですよ」
「探偵……」

わたしは困惑した。予想の斜め上を行く回答だった。

「え、なんで探偵なんですか?」
「密室殺人を解決したいじゃないですか」
「密室殺人を解決したいじゃないですか……!?」
「すきなんですよ、金田一少年とか、名探偵コナンとか」

もうどこからツッコんでいいのかわからない。ボケが高度すぎる。わたしは笑いすぎて酸素不足になった。友人は明らかにむっとして「いや、マジで密室殺人解決したくって……」と言い訳を始めた。それを聞いたわたしはますますおかしくなった。

もっとこの人の話を聞きたいと思ったわたしは、追加でコーヒーゼリーを頼み、結局3時間もサイゼでだらだらした。こんなに喋り倒したのは初めてだった。今まで感じていた外食に対する恥ずかしさもどこかへ吹っ飛んだらしく、ただ食事を楽しんでいた。

帰り道も(暴風でところどころ聞き取れなかったものの)楽しく話しながら歩いた。ふたりして道を勘違いしたので一駅分余計に歩き、足が筋肉痛になったけれど、話が途切れることはなかった。またどこか行きましょうと言って、別々の電車に乗りこんで別れた。

 

電車に揺られながら、なんだか映画のエンドロールみたいだなと思った。

思い当たる終わりはただ一つ、外食の練習である。多くの練習を重ねに重ね、友人と外食に行けるまでになったのだ。わたしは完全に外食を克服した。これで誰と外食に行っても恥ずかしくない!

……しかし、その日から今日まで、緊急事態宣言発出も相まって一度も外食に行っていない。もうすでに外食の感触を忘れつつある。もしかしたら全然完結していない、かもしれない。