気まぐれなあとがき

すべてあなたとわたし宛て

男子高校生

「たとえばさ」
「うん」
「俺かお前のどちらかが女だったとする」
「うん」
「もしそうだったとしたら、俺ら、結構いい線いってたんじゃないかと思うんだけど」
「どうだろうね」
「なんだよ、つれねえ奴」
「ラーメン屋に並んでるときにする話じゃない」
「そう?」
「腹減ってるときに思考力が問われるような話題を出されても困るんだよ」
「そんなこと言われても」
「俺は今機嫌が悪い」
「知ってる。腹減りすぎたんだろ。だからラーメン屋に連れてきた」
「この地域で一番人気の行列ができるタイプのラーメン屋にな」
「ちょっとでも美味いもんの方がいいかと思って」
「これ以上待たされたら気が狂いそうだ」
「まあまあ。あとちょっとじゃん」
「こんなことになるんだったらコンビニかどっかでスーパーカップでも買った方がよかった」
「後悔しても時間は不可逆だよ」
「お前にだけは言われたくないね。だいたい何なんだ、なんでよりによってこんな日にラーメンなんだよ」
「失恋の痛みはラーメンで補うしかない」
「その持論マジで意味わからん」
「意味わかってもらおうなんて思ってないから」
「ドヤ顔で言うな」
「当たりが強いなあ」
「うるせえ」
「そういうこと言ってるから吉川美南にフラれるんだよ」
「ねえ殴っていい?」
「ダメに決まってんだろ」
「あーもう嫌だ、死にたい」
「そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい?」
「何それ」
「何でもない。気にしないで」
「あ、そう」
「……で、若干話戻すけど、吉川美南になんて言ってフラれたわけ?」
「そりゃあ企業秘密。ミッフィーちゃん」
「お前いつから企業になったんだ」
「ことばの綾だよ」
「知ってる。どうせまたロマンティックなこと言ってドン引きされたんだろ」
「うう……傷を抉るようなことしか言えないのかお前は」
「うん」
「うんって……」
「だからこうやってラーメンを奢ることによって励まそうとしてんじゃん」
「ありがたいっちゃありがたいんだけど、なんだろうこの複雑な感情は」
「素直にありがとうって言え」
「……ありがと」
「やだ照れてるぅ~超かわいいんですけど」
「お前その口調やめろ、気持ちわりい」
「まあ、次の恋愛に向きあうことだね。いつまでもくよくよしてたって仕方ないんだしさ。今日は奢ってやるからありがたく貪り食いたまえ」
「フン、他人事だと思って」
「だって他人事じゃん」
「……」
「ほら、食券機空いたよ。何でも好きなもん頼め」
「……さっきの話、あながち間違いでもないかもな」
「え?何の話?」
「もう忘れたのかよ!もういい、煮卵追加しよ」